『居住用の不動産を借り、そこに住みながら事務所としても使う』というケースはSOHO(Small Office Home Office)と呼ばれ、このコロナ禍において近年増えつつある働き方の一つです。しかし居住用と事業用では使用用途や掛かってくる税金、法律の扱いも異なってきます。そこで今回は、居住用不動産に住居兼事務所として借りたいという入居申込があった際の実務上の注意点をまとめてみます。
1.消費税や固定資産税への影響
事務所使用が可能な物件を居住用として貸す場合は、居住用の賃貸借契約を締結するため賃料に消費税は発生しません。反対に同じ物件を事務所として貸す場合、事業用の賃貸借契約を締結しますので賃料に消費税が発生します。そうすると「居住兼事務所で貸す場合の消費税はどうなるのか?」という疑問が生まれます。
このことを考える際に比較したいのが、居住部分と事務所部分がしっかりと分かれており、それぞれ独立して利用することができる『事務所併用住宅』です。『兼用』は一つの区画を住居と事務所という二つの用途に使い、『併用』住居と事務所が完全に分かれているとイメージするとわかりやすいと思います。
住居区画と事務所を併用している住宅の場合、独立した事務所として使用されている部分には賃料に消費税が発生します。しかし、『主に住居として使用され、事務所も兼ねている住居兼事務所』であれば、基本的に住居物件扱いとなり、賃料に消費税は発生しません。賃貸人側も同様に、事務所として使用している割合の家賃を課税仕入れにできないことになります。
また土地の固定資産税や都市計画税についても居住用建物としての土地には『住宅用地の特例措置』により税負担が軽減されます。するとここでも「住居兼事務所で貸す場合は軽減されるのか?」という疑問がでてきます。
『住宅用地の特例措置』は、一棟のアパート・マンションに住居として使われている区画と事務所として使われている区画が混ざっている場合、事務所として使われる区画が一定割合以上になると軽減される土地の面積が減る仕組みになっています。しかし『主に住居として使用され、事務も兼ねている住居兼事務所』であれば住宅としての実態があるとみなされ、土地の面積は住宅用地として軽減の対象となります。
2.建築基準法や消防法の規定、盲点である火災保険
建築基準法・都市計画法には、建築物をその用途に応じて適切な場所に配置するための用途地域というルールがあります。
第一種・第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域には基本的に事務所を建築することはできず、居住用として建てられた建物を事務所として賃貸することもできないとされています。しかし『主に住居として使用され、事務所も兼ねている住居兼事務所』として契約することは、面積の要件はあるものの基本的には問題ありません。
次に消防法に関してですが、こちらは用途により防火対象物が細かく分けられているため、必要な消防設備も違ってきます。
アパートやマンションは共同住宅等という用途で新築時に消防検査を受けており、勝手に用途変更することはできません。ただし、住居兼事務所という用途はないため『主に住居として使用され、事務所も兼ねている住居兼事務所』は住居として扱われることになります。
また賃貸人が建物に掛ける火災保険ですが、居住用物件は『住宅物件』、事業用の区画が1つでもあれば『一般物件』として区分されています。賃借人が加入する火災保険においても、住居として借りる場合と事務所として借りる場合で保険の種類が異なります。
『主に住居として使用され、事務所も兼ねている住居兼事務所』は区画全体が『暮らしの場』として利用されているのであれば、住宅扱いとなります。ただしこれは保険会社が判断することになるため、万一の時に保険金が下りない事態になってしまわないよう必ず確認するようにしましょう。
3.賃貸借契約書の注意点
では実際に住居兼事務所として入居申込があった際、賃貸借契約上どのようなことに注意すれば良いのでしょうか。
まずは居住用の賃貸借契約書を使用し、『主な用途が居住用である住居兼事務所』としての使用を認めさせることを示しましょう。さらに居住用の建物としての利用を大きく逸脱するような行為により、他の入居者に迷惑をかけたり、不信感を与えたりさせないための特約を付加するようにしましょう。具体的には不特定多数の来客、業務用倉庫利用と受け取られる量の荷物の保管、事業系のゴミ出しなどです。これらの特約を設定しておくことで、自ずと利用可能な仕事内容も限られてきます。
加えて外から見ても住まいとしての体裁を保ち、誤解のないようにすることが大切になります。対策としては、看板の掲示やポスト・表札に会社名や屋号を表示しないようにしてもらいましょう。郵便物受取のためだけであればポストに会社名や屋号を書く必要はありません。まれに商業登記をしたいと言われることがありますが、住居としての利用が主であるという実態があるのであれば、登記を許可することでオーナーが困ることはほとんどないと思われます。退去する際には、住民票と同じで登記の住所を移動するよう特約に記載しておきましょう。いつのまにか事務所用途が主になっていたり、事務所専用として使用される事態を防ぐためにきちんとした賃貸借契約を締結することが必要です。
住まいを事務所にもしたいという入居者のニーズは今後も増えると思われます。上手く取り入れられれば空室対策にもなりますが、安易に行うと知らないうちにルール違反となる可能性があり、賃貸人自身が困ることになり兼ねません。そのような事態を防ぐためにも正確な知識を身につけ、安全に賃貸経営を行うようにしましょう。

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